カチャ、と金属の擦れる音。

まばたきのあとに目にした光景は、この学校のどこよりも異空間だった。──床に敷かれた、落ち着きのあるワインレッドのカーペット。



大きなシャンデリアと絵画、液晶テレビ、そしてテーブルセット。

奥にも部屋があるようで、普通の廊下を入ってきたはずなのに、本当に家のような装飾。



「遅かったわね、椛」



ソファに足を組んで座っていた、金髪碧眼の美人さん。

綺麗な人だ。ここにいるのはわたしを連れてきた彼を除いて4人だけれど、唯一女性みたいだし。彼女が、おそらく"女王様"。



「夕(ゆう)さん、んなこと言う〜?

自分が動きたくないから、俺に迎えに行ってこいって命令したくせに」



むっと顔をしかめる彼。

それから二人掛けソファに促され、ちょこんと腰を下ろせば「はじめまして」と彼女は安心させるように微笑んでくれた。



みさとはさておき、教室では放送の後から女の子たちにずっと嫌そうな顔をされていたから、こんな風に笑いかけてもらうのはなんだか新鮮で。

彼女の隣に腰掛けた騎士椛は、わたしの心を見透かしたようにくすりと笑った。




「あたしは、女王 夕帆(めおう ゆうほ)。

高3でロイヤル部副部長、いわゆる副会長」



よろしくね?と。

毒気のない笑みに「よろしくお願いします」と返す。



そんなわたしをじ、と見つめた彼女。綺麗なブルーが数秒わたしを捉えて、何事もなかったかのように逸らされた。

それから「ルノ」と彼女の呼ぶ声に返事したのはわたしから見て右側のソファに座っていた、ブラウンアッシュの髪の男の子で。



「八王子(はちおうじ)ルノです。

1年で夕さんと同じく、副会長を担当しています」



彼が『王子』。まるで赤い薔薇が彼のまわりに舞っているんじゃないかと思わせるほど優雅に笑ってくれるから、視線が不自然に泳いだ。

落ち着きのあるこの声は、教室で聞いたあの放送と、同じもの。



「椛先輩は、自己紹介されたんですか?」



「ん〜。ここ来る前にねえ。

ああ、そうそう。俺は書記ね。ってことで次、莉央(りお)」