う。
「……だから、好きかどうか分かんないんです、って、……憶えても、ないし」
分からない。
どうして喜一のことだけきれいさっぱり忘れてしまったか。それなのに、どうして、こんなに懐かしいのか。
ただ喜一の手が当たるところが熱くて、さっきからぽつりぽつり落とされる告白に心臓が痛くなる、それくらいしか。
「あ゛ぁ? またそれかよ。ほんっとに変なとこ真面目で意地っ張りだなテメェは」
分からない、けど。
そう言った喜一の手が頭を優しく撫でてすべり降りて、また頬に来た。
たぶん、目をそらさないように。
がっちり両手で固定されて、目の前の顔しか見えないように、ぐっと力を込められる。
「あ、あの」
「そんなん、また惚れさせるからいいんだよ」
───少し不機嫌そうに言い放たれたその後、喜一の手から開放されて。
「……う、うわぁ……」
「うわぁってなんだよ文句あんのかアァン!?」
うわぁ、こんなくさい台詞に、耳が熱い。
笑えてしまう。
だって憶えてないのに、声が、においが、この人の近くが、心地いいから。
「ムダに自信満々なところ、変わってないですね」
「テメェ…………っ、え?」
「?」
すれ違った思いを合わせてもう一度。
今度はちゃんと伝えるように。
しまった思い出は大切に抱え込んで、またいつか。
───────ハウトゥ・シナプス【完】.