久々に妖怪と出くわしたから驚いただけだ。

キスマークをつけられた箇所に触れると、まだわずかに熱があった。

俺の様子を見て、大丈夫だと判断したらしい杏は、突然着ていたパーカを脱ぐ。


「え……」

「やっぱ暑いよね、夏なのにパーカなんて着ると」


パタパタと手で扇いでいる姿に目を奪われた。

いや、正確には……パーカの下の服装にだがな。


「杏……それはちょっと……」

「え? なぁに?」


全く気にしていないのか、キョトンとする杏。

俺が目を奪われた理由、それは……。


長袖のパーカの下は、黒のベアトップだったから。

見ただけでコイツの体のラインがわかるような服。

華奢な肩、細くて長い腕。

真っ白い肌に映える黒の服だが、胸元は左右から寄せられた胸の谷間がくっきりと見える。

ベアトップにショーパン。

露出部分が多すぎる気がする……。

仕事中やその前後はパーカを着ていてくれて助かった。

じゃなきゃ、吸血の女より男たちが間違いなく襲ってきただろう。


「やっぱり夏だね~まだ7月なのに、8月とかどうなるのかなぁ?」


呑気に話す杏のことで、頭が痛くなってきた。

あ――。

自分のことに無頓着な彼女は、無邪気に笑って、俺へと話しかけてくる。

こりゃ、『露出が多い服は控えろ』と言ったって……絶対に理解しない。

『なんで? 暑いじゃん』とでも言いそうだ。

それなら……キスマーク、ガンガンつけて、隠すための服を着せていた方がよさそうだな。


「杏」

「ん~?」


のんびりとした返事をする彼女を抱き寄せて、口を塞ぐ。


「急にどうしたの?」


一旦離れたところで、不思議そうに問いかけてきた。


「……」

「陸?」

「……吸血鬼ごっこ」

「はい?」


ポカンとした杏の首に口づける。


「何やってんのよ、もー……」


杏はフフっと目を三日月にして柔らかく微笑み、無意識に俺を誘惑してくる。


そうして―――……いつも俺の本心を知らない彼女は、今夜も自覚なしに俺を翻弄するんだ。



――END――