桜舞う四月上旬。


あたし、東條 凛音(とうじょう りの)は今日、このN県に引っ越してきた。


引っ越しの理由はこの県にある公立高校に通うため。


転校とかそんな理由ではなく、この春から高校に通うれっきとしたピッカピカの高校一年生だ。



合格した高校は実家の隣県にあり、電車で通学すると約一時間ほど。


少し早起きすれば十分通える距離だったけど、朝が弱いあたしにとってはそれは無理難題で。


朝が弱いという事を嫌というほど心得ているママが合格発表後、『独り暮らししたらどう?』と薦めてくれた。


それがこの一人暮らしの始まり。


前から一人暮らしに興味があったあたしは、その話が持ち上がった瞬間跳び跳ねて喜んだ。

もちろん、一つ返事で承諾。

人生初の一人暮らしが決定したというわけだ。



隣県と言ってもそんなに詳しくなく、知っているのは入学する学校とこの県の中心地、繁華街だけ。


だから、とりあえず便利なように繁華街の近くに引っ越した。


まぁ、ぶっちゃけ移動するのが面倒臭かっただけなんだけど。



引っ越し先のマンションはスーパーもコンビニも近く、学校も近い。文句なしの最高物件。



「友達何人出来るかなぁ……」



これからの事を考えるだけで自然と笑みが零れる。



この街はあたしにどんな世界を見せてくれるのだろう。


家族も友達も誰も傍にいないこの街で、あたしは新しい人生をスタートさせる。


不安も沢山あるけれど、それ以上に期待の方が大きい。



きっと、何かある。

そんな予感がした。




その“予感”がすぐ目の前に迫っているとも知らずに、あたしは満月を見上げながら再び地面を蹴り上げた。