その日、泉は上機嫌だった。


何があったのか問いただしても、言葉を濁すだけで教えてくれない。


いつかね、いつか言う。

それだけ繰り返すと、泉はまた上機嫌に鼻歌を歌った。


もう、泉と過ごして三か月以上経った。
無事に泉は大学を卒業して、鈴恵さんのとこに就職することになった。


泉が俺の家に来ることも、当たり前になったし。

こうやって、笑いあうことも。


全てが日常になった。


俺の家は相変わらず殺風景で何もなかったけど、少しずつ。

本当に少しずつ。

食器や、調理器具が置かれていった。


それがとてつもなく幸せだと思った。



「ねえ、伊織?」


「何?」


ふんふんと鼻歌を歌っていた泉が、昼ご飯を作りながら俺を呼んだ。


「子供の名前とかって考えたことある?」


「…子供?」


「そう、子供。
もしさ、出来たら私名前考えてるの」


「はは、気早いな」


「…そう?」


急に泉は曇った顔を見せる。
さっきまでの上機嫌はどこへいってしまったのか。