昔はそこそこ賑わったようだが今ではここが映画館だと言うのを知らない人の方が多い有り様だ。


上映も同じ映画を半年も続けたり、新しい映画は滅多に来なかった。


しかし、入れ替え制も無くて時々驚くようなマニアな映画を上映するために僕は時々ここに来ていた。


彼女と隣り合わせで座り映画を観始めるが、最初の辺りは彼女の溜め息が聞こえていた。


しかし、段々物語が進むにつれて彼女の溜め息は、違う意味の溜め息に変わってきているように思えた。


僕は彼女の横顔を見ると薄暗がりの中で目が光っているように思えたし、物語に集中しているように見える。


僕が彼女の横顔を見たその時に建物が軽く揺れた。


彼女の顔に僅ながら緊張が走ったが物語に集中しているように思えてほっとした。


僕は、売店で何か飲み物と食べ物を買おうとそっと席を立った。


売店にはこの映画館の館長の背の低い白髪の老人がいて僕は始まったのかと聞きながらポップコーンとコーラを二人分頼んだ。


「始まったようだね。私らもゆっくり映画を観ながら待つよ。まだもう一度くらいは観れるはずだよ。」