俳優にでもなったつもりで俺は毎日囁く。

由宇は疑うことなく。
トロンとした瞳で俺を見つめると、俺を欲した。


「おはようございます」


「ん、おはよ」

翌日。
いつも通り事務所に入ると、店長がタバコを吸いながら携帯を開いていた。

「あー伊織」

着替えをしながら店長の方を見ると、こちらを見ずに続ける。

「最近、麗奈も伊織のこと聞いてくんだわ」


「はあ」

ジーンズからスーツに身を包みながら俺も続ける。
目を見ないでの会話。

「それでな、優と揉めてんだよ」

“優”、由宇のことだ。
名前は気に入ってるけど、漢字はこっちが好きなんだ。

由宇は二人でいる時そう言っていた。


「麗奈のこともうまくやってくれよ」


「…わかりました」


「んーよろしく」


俺は、キャバクラと言うものを知らなかったし。
ここが全てだったから。


風紀も何も疑うことなく。
ただ黙って、その任務を全うするだけ。