………泣いてなんかない。



脂汗が滲んで、背中にべっとり張り付いて気持ち悪い。
だけど、泣いてなんかない。

「…泣いて、ないよ…?」


俺が自分を納得させるように呟くと、泉が目を細めながらはっきりと切り返した。

「泣い、てる、よ…?
伊織、目、泣いてる」


ハッとして、頬に手を伸ばすが濡れた感触はない。
俺はやはり泣いてなんかいなかった。


なのに、どうしてそんなこと言うの?


「……伊織…、す、き」


泉が体を起こして、俺に抱きつく。
いや、しがみついたが正しい。


そのまま、意識を手放した泉は規則正しい呼吸音を俺の耳元でさせた。


……ああ。
安心する。


泉の体温は。
俺を酷く安心させる。



だけど。