年は定かではないが、顔だけで判断したところ、成人しているかしていないかという、微妙なラインだ。


「酒童先輩って、ここだよな」


男は部屋の番号をまじまじと見つめ、酒童の名を口にしたらしい。

そして、


「すんません、酒童嶺子って人、ここっすよね?」


と、初対面とは思えぬ口調で問うてきた。


「あ、その人ならここに住んでますよ。
今は不在だけど」


能天気な陽頼が、何の疑問も抱かずに答えると、男は、今度は陽頼の顔を覗いてきた。


「っほー……」


物珍しげに呟くと、男はなにやら考え込んで、こんな独り言を零したという。


「あの人、妹いたんだ」


どうやら、陽頼を妹と勘違いしたらしく、男はそこから、陽頼を「妹」と呼びだした。


「じゃあさ、妹。
酒童先輩、なんかいねぇみたいだから、伝言を頼んでもいいか?」


当の妹と勘違いされた陽頼は、この名も名乗ってこない妙な男さえ、不自然に思うことなく、親切にうなづいたようだ。

妹じゃない、と否定するのも忘れて、だ。


「いいよ。それで、何の伝言?」

「鹿か猪かケルピーか。
どれが好きか訊いといてくれるか?
俺、またここに来るけど」

「うん、わかった。
よくわかんないけど、伝えとくね」

「さんきゅ」


こんな具合で話をし、そして男が去って行こうとした時、彼の腰についていたベルト式のバッグから、

これはまた大きな巾着がひとつ、がしゃり、と重量感のある音を立てて落ちた。