「許せぬ……」

 いいや、許されざる者たちだ。彼らは―――。

「うぬううう、う、う、う」

 ゆ、る、せぬ。

 女は暫時、暗黒に呑まれて一人悶えているのだった。


 ***

 
 教師に気に入られれば評価も良くなる。

しかしそれに伴って、荷物運びの手伝いだとか面倒な仕事を無償でやらされる羽目になる事も、多々あるのだ。

 プラスマイナスゼロ。

 それは現在の晴也を言う。

「秀才もいいことだらけじゃ、ないんだなあ」

 細川が苦笑した。

 破損しやすい化学実験器具が詰まった籠を腕に抱え、晴也は細川に見守られながら職員室まで急ぐのだった。

「さ、がんばれがんばれ」

「言うなら手伝ってくれよ……」

「いや、それは御免こうむるね」

 細川はただ晴也にエールを送るのみである。

 貧弱な晴也の腕は、今にも籠を放してしまいそうだ。

生まれたての鹿の如くにぷるぷると震撼している。

「そういえば、黒田」

「なんだよ、ちょっとまじで、腕がやばいんだよ」

「お前って、道麻先輩と仲良くなったんだって?」

 細川に言われて、晴也は思わず脱力しそうになった。

かたり、と器具が音を立てたので、ぎょっとして力を入れる。

「な、なんでそんなことを?」

「いやさ、昨日お前が親しそうに先輩と喋ってんのを、バレー部の先輩が目撃してさ」

「う、うん」

「俺は最初、入学早々カツアゲされてんのかと思ったけどさ……」

「それは、違うよ」

 そうとも、それはもちろんのこと事実ではない。

 竜頭蛇尾とはまさに彼の事で、容姿は虎の如しであるが、性格はいたって温厚、

もっと言ってしまえば柔軟な変態である。