「ねえ、七海(ななみ)ちゃん。どう考えても早く着きすぎたよね」


あたしこと、桜井七海(さくらいななみ)の隣に座っている大親友の塚本花梨(つかもとかりん)ちゃんが、寒そうにコートの襟を寄せた。


まだ三月の上旬。少しだけ春が近づいてきた気配は感じるけれど、まだまだ冬の寒さは健在。


しかも早朝に少し雨が降ったせいか、ここ数日の内で一番気温が低いみたい。


身の引き締まる冷たい空気を感じながら、あたしもタータンチェック柄のマフラーを鼻先まで引き上げて、首を横に振った。


「早いくらいでちょうどいいよ。だって入試に遅刻するわけにはいかないもん」


そう。今日は高校の一般入試日。


なんてったって、一年かけて準備してきた受験の最終決戦日なんだから!


花梨ちゃんのお母さんが運転する車に乗せてもらって、あたしたちは、ついさっきこの志望校に到着したばかり。


着いたのはいいけれど……集合時間より一時間以上も前に着いちゃった。


引率の先生から指定された集合場所の生徒玄関前には、うちの中学の生徒どころか、他校の受験生の姿もほとんど見えない。