多優という男は、元々播磨(はりま)の国近くの、本当に小さな里の子であった。

 播磨は蘆屋 道満で知られる陰陽師の有名な出身国ともされている。

 名前の通り誰にでも優しく、人柄も良い少年としてその小さな里では可愛がられていた。暇があれば山へ行って動物を捕ったりもした。


 また、方術の才も人よりも豊富で、通りかかった法師陰陽師や修験者も振り向くほどの呪力を放っており、方術を教えれば全てそれを我がものとしたほどだ。

 しかし、多優はそれを『人を傷付けるために使った経験』がないのである。

 何があっても、どんな武器を使ったとしても、生きているものを無意味に傷つけてはならない。

 そんな父の言葉を、多優は大切に守ってきたのだった。

 
 多優を天冥なる男に育てた引き金となったのが、多優が十歳の時であった。