「ああ、もう戌四つ時だ」

「仕方無いではないか。山の中に食べ頃のわらびとか若菜が生えておったのだから。というか、申の刻に乾飯(かれいい)を食っただろうが」

「食った食わなかったの問題ではなく、鬼でも出たらどうする」

「大丈夫だと言うておろうが。俺は鬼よりも、明日の飯の中に塩以外何も入っていない強飯を食う方がよっぽど嫌じゃ」


 なんと偏屈な。

 やっとの事で山を降りて道祖大路に出たところで、天冥は乾飯が入っていた(今はわらびや若菜が詰まっているが)、妙に薄い袋に手を入れる。

 取り出したのは、野いちごだった。四つほどの野いちごを潰さぬように取り出し、その二つを明道に渡す。


「ほれ」

「ああ、ありがとう・・・」

「俺の味覚で言うが、甘く美味いぞ」


 野いちごを口に放り込む天冥を見て、明道もそれを口に入れる。歯で噛み潰すと汁が喉に流れた。
 野いちごは妻とこの山に来た時に食べて以来で、だいぶ久しぶりだった。


「久々に食うと、美味い」

「食ったことあるのか?」

「ああ。そういう天冥も?」

「まぁな。仲間と山へ行って、よく食べた」