【目付・七瀬博紀の最終報告】
 

まったく散々な婚約式だった。
 
感想を述べるならこの一言に限る。

ガキ達に舐められるわ、こっちの密かな野望はことごとく打ち砕かれていくわ、会長には僕のヤラれ具合にねちねち嫌味を飛ばしてくれるわ。本当に散々だった。


今回の件で得られたものは何だろうか。

……ストレス?
ああ、まさしくそれだ。それしかない。

損害も良いところだ。
特にイチゴと呼ばれていたあの花畑という少年には、いつか必ず、≪おつり≫を返さなければ。腹立たしいこと極まりない。


一件は空さまの誘拐事件ですべてが片付いた。

彼を攫ってくれた哀れな≪駒≫のおかげで婚約式中止の正式な口実も出来たわけだ。

あれだけ有名な財閥の令息令嬢その他諸々の関係者を呼んでおいて、「当事者が逃げてしまったんで」じゃあ示しがつかない。

会長の先の先を読んだ策は見事に財閥の名誉を守ったわけだ。

怖いね、名誉を守るために人命を使うなんて。

一歩間違えれば空さまは、あの誘拐犯もろともお陀仏だったのだから。


ああ、どうやらブレーキの細工は漏えいされていないらしい。

誘拐された空さまなら、この件を知っている筈。

警察に話すのではないか、ならばそのためにどう動くべきか。


色々思案をめぐらせていたのだけれど、彼は細工に気付いていなかったらしい。

ということは素敵なドライブの最中は気を失っていた可能性が高い。


なら好都合だ。


……さと子が成り行きで同乗していたようだが、この調子なら大丈夫だろう。