紗矢花が口にする「好き」は、兄に対して使う「好き」と同じ意味だった。

自分を兄のようにしか思っていないことくらい、知っている。


片想いが始まったと思った束の間、紗矢花に彼氏ができてしまったときの衝撃を思い出す。

もう少し彼氏ができたのが早ければ、ここまで好きにはならなかったのに――と後悔しても遅かった。

すでに心の深い場所に、彼女が入り込んでいた。


それでも今、少しの間だけでも一緒にいられるのなら構わなかった。

たとえ自分のことを異性として見ていなかったとしても。





食事が終わり、紗矢花と二人リビングでくつろぎながらテレビを見ていた。

同じソファに座るのではなく、対に並んだ二つのソファへ別々に座る。

これが二人の距離。


動物が出てくる番組で、紗矢花が可愛いを連呼してはしゃいでいる。

画面の中の動物より、そんな彼女を見て癒されている自分……。


けれどその平穏は――自分にとっての平穏は、紗矢花にかかってきた一本の電話によって破られた。


「あ……。カレから電話だ」


ディスプレイを確認し、複雑そうにつぶやきながらソファから立ち上がる。


紗矢花は今、彼氏と喧嘩中。

この家に遊びに来てくれているのは、ただ単に、気を紛らわせるためだった。

つまり、こうして二人きりで会えるのは、紗矢花が彼氏とうまくいっていないときだけ。