自宅に戻ってきた恵一はリナのポスターが大量に貼られている湿った部屋に駆け込んだ。


そのまま部屋の鍵をかけて、中央に座りこむ。


普段ならすぐにデジタルカメラの写真をパソコンに取り込んで拡大印刷を行うのだけれど、今日は違った。


部屋の中央に座り込んだ恵一はカバンの中から真っ白な仮面を取り出した。


それはまだ少し太陽の熱を持っていて、手の中にあると暖かい。


なんの絵も描かれていない面は真っ白で汚れひとつついておらず、新品のように見える。


でも、真新しい仮面をあんなところに忘れていく人間なんているだろうか?


演劇部の備品だとしたら余計にだ。


新しく購入したものを忘れて、そのままにしておくなんて思えない。


だとすれば、やっぱり大田の仕業だろうか?


確認したときは誰もいないみたいだったけれど、巧妙に隠れていたのかもしれない。


本当は影で恵一の行動をすべて見ていて、仲間と笑っていたのかも。


その仲間の中のリナの姿があった様子を想像してしまい、恵一は慌ててかぶりをふってその想像をかき消した。


リナはそんなことに参加する子じゃない。


大田に誘われたとしても断るに決まっている。


そう思い直し、恵一はまた仮面に意識を集中した。


顔につける面を確認してみると、こちらも真っ白だった。


表も裏も全く同じ。


耳にかける紐もなく、ただ顔に当てることしかできない。