また、視線を感じた。


この本棚の前を通るといつも感じる誰かからの視線。


それはこの本屋に私が勤め始めた時からずっとだった。


誰かに相談しようと思ったりもしたけれど、怖い話が苦手な人ばかりなので、なかなか相談もできずにいた。


その本棚はお店の一番奥にあり、返本前になった古い商品を置いておく棚だった。


中には返本さえ忘れられたような、年代ものの本も混ざっている。


視線は本と本の間から感じられた。


私はチラリとその本棚へ視線を向けると、足早にその場を通り過ぎた。


「えぇ、ここのお店潰れちゃうんですか!?」


事務所へ入った瞬間、先輩のそんな声が聞こえてきて私は立ち止まった。


事務所には先輩と店長の姿があり、店長は難しそうな顔をしている。


「あぁ。最近売り上げが良くなくてな……」


「そんなぁ!」


「君たちにはちゃんと再就職先を斡旋するから」


それから1か月後。


閉店が決まった後は早いもので、商品はどんどん棚から撤去され、閉店当日を迎えていた。


今日を最後にこの店はなくなる。


そう思うと、自然とあの棚のことが気になった。


あの棚の商品も今日が終れば空になる。


怖い気もするけれど、長年の気がかりが晴れる時でもあった。


「あ~あ、終わっちゃったね」


「そうですね」


閉店後、寂しそうな顔をする先輩に、私は短く返事をした


勤め馴れた場所がなくなるのは寂しい。


けれど、それよりも棚の奥の事が気になった。


「先輩、ちょっと気になる事があるので行ってきます」


私はそう言うと、エプロンを脱いで足早にあの棚へと向かった。


本が沢山並んでいたあの棚も、今ではスカスカになっている。


近づけば近づくほど、心臓は鋼をうち始めていた。


本当に行くの?


本当に確認するの?


心の中でそんな声が聞こえて来る。


弱気になりそうな心を奮い立たせて棚の前に立つと……。


棚の奥には真っ黒な人型のシミができていたのだった……。



数か月後。


解体された店内から、壁の中に練り込まれた男性の死体が発見された。




END