彼らのマンションに
有の運転で向かった。

窓から入ってくる風が
初夏の香りを感じさせた。


有は特に私に話しかけるでもなく
時折、外を眺めながら
軽く鼻歌を歌った。

彼のハスキーな声と
ふんわりとしたブレーキの踏み方が
なんだか心地よかった。


「ひまりは、家族いないん?」


全てを分かっているかのような口調で、
有に問いかけられると
なんでも話してしまいそうになる。


歩道橋で出会った時のことを
思い出す。


「うん、親が離婚してから、施設育ち。」

「へー」


それ以上は聞かないで
また鼻歌を続けた。


同情するわけでもなく、根掘り葉掘り聞くわけでもない。

この話をして、こんな反応をする人は初めてだった。


「じゃあ、今日からは俺たちが家族だからね。」

「え。」


車はちょうど信号で止まり、私が顔を上げると有はそっと私の髪をすくった。


「さ、もうすぐ着くよ。」