那岐side




『あぁ絃ちゃん?なんか帰ってきたけど』


「…なんでだよ。呼び戻せ」


『戻る気ないっぽいよー。てかすっごい死にそうな声してるけど、大丈夫なの絃織さん』



絃に電話をしても案の定出ないから、陽太へと出るまでかけた。


あいつはどこのコンビニまで行ってんだよ…なんて思っていたら、屋敷に戻りやがった。

今日は特別な日だってのに。



「おい、どこに行くつもりだ。安静にしていろ」


「絃を迎えに行ってくる。佐伯、お前はもう帰ってくれていい」


「その体調で運転する気か?事故るぞ」



そんなとき、スマホが光る。

新着メール1件、内容は『進路に集中したいので帰ります』と。


当たり前だがこうなる予定じゃなかった。

まさか熱出して倒れるなんて情けないことになるとは予想外だった。



「昔はもっと聞き分けが良かったはずなんだがな、那岐 絃織は」


「今日だけは特別なんだよ。…お前には運んでくれたことには感謝する」


「特別って…今日は何かあるのか」



お前こそ昔はそこまで詮索をしてくるような奴じゃなかったはずだが。

なぜか絃のことをよく聞いてくる。


それに今日ここに絃がいなくて佐伯といること自体、意味わからねえだろ。



「別にお前に話すことでもない。離せ、お前の提案は断ったはずだ」


「はっ、そんなにも女に盲目な奴だったなんて驚きだ」



腕を掴んでくる女は苦手だった。

そうして平気に振る舞うくせ、腹の中は女々しい感情が渦巻いていることを知ってる。


そんなものを許せるのはただひとりだけだというのに。