紺色の空だ───…。


それは月の光か、星の光か、それともまた別の光か。

照らされた夜空はどれだとしても良いものなのだろうと、男はうっすら瞳を開いて見つめていた。



「夕焼け小やけの赤とんぼ───…」



背中を向ける1人の女は茶色く長い髪を夜風に揺らしながら、縁側に腰かけていた。

微かに身体をゆっくり揺らして心地の良い音を響かせ、静かな夜にふんわり広がった。


そして「ふふっ」と、柔らかい笑い声。



「この時間に夕焼け小やけはおかしいよねぇ。これちょっと間違ってる」


「…おい、それは俺を馬鹿にしてんのか」


「あ、パパも起きちゃったみたい」



振り向かない肩は楽しげに揺れていた。


ふぇぇぇんっと、可愛らしい泣き声が聞こえれば「よしよし」と追いかけるように囁く女。

しかし腕に抱かれた赤子は中々泣き止まない。


そんなものを男は横になって優しい顔で見つめていた。



「赤とんぼは毎日歌ってるから飽きちゃった?そんな君に朗報です!
ママのオリジナルソングを歌ってあげるっ」



そんなのあったのか、と男がつぶやけば「即興で作るの」と返ってくる。


それは本当に即興だった。

ルールル、ラーララ、なんて誰でも作れる音だけで構成されたもの。



「ふぇぇぇんっ」


「だよね泣き止まないよね…!ごめんね分かってた!よしよし、お願い泣き止んで~」



見兼ねた男は、ふっと微笑んで立ち上がった。

女の隣に腰かけて、赤子をゆっくり抱き上げる。