「俺の本名は“那岐 陽太”。実はこの若頭さんとは遠い親戚なんだ」



途端にざわめきが生まれる。

そりゃそうだ。

まさかその名前の生き残りがもうひとりいたなんて、誰も思っていないはずなのだから。



「だから…もしこの人に軽蔑の眼差しを送るってんなら、それは俺にも送ってくれていいから。
俺も“那岐”として誠心誠意受け止めるよ」



まさか俺がこんなこと言う日がくるなんて。あんなにもこの姓を恨みつづけてたってのに。

この男のことなんか大嫌いだったのに。

天鬼なんか、潰したいくらいに嫌いだったのに。


それなのに俺にとって天鬼組はいつからか馬鹿な奴らが集まる家族みたいだったから。



「天鬼組に“那岐”は2人いるってこと。それだけは覚えておいて」



ここにきて初めて俺を怖がらない子に出会ったんだよ。

そしたら俺よりも泣いちゃうような子で、うるさいし賑やかだし馬鹿だし、どうしようもない子だけど。


俺の初めての友達になってくれて、親友にまでなっちゃって。



「おい剣さん!!どういうことだ!!あんたがなぜ“那岐”と関わりを持ってるんだ!!」


「そうだ!!那岐 慎二とは縁を切ったんじゃないのか!!」



今度は天鬼組組長へと移った。

ずっと黙っていた男は「うるせえ!!」と、大声。


しんと静まり返る会場。



「那岐 慎二は俺の大切な親友だ。だがここにいる息子の絃織は、てめえの実力でここまで這い上がったんだよ」


「だが…!!」


「それに俺の大事な一人娘を任せられるのだって……昔から絃織しかいないんだ」



その声に、まさかと誰もが目を見張っている。

それは絶対に言ってはいけないとされていたことだった。