「ほら、すっごく綺麗よ絃ちゃん!」



鏡に映る自分は自分じゃないみたいだった。

ナチュラルなのに艶やかで、ひとつひとつの動作がスローモーションになって映ってくれる。

また少し大人に近づけたような気がする感覚が、ちょっとばかり恥ずかしい。



「私はずっとね、あなたが羨ましかった」



普段ポニーテールに纏めている髪は下ろされて、軽くアイロンで巻いてくれた。

うなじを見せるように右側に流してピンで留める。



「私が泣いてる絃ちゃんの面倒を見ようとしても、必ず絃織ちゃんが離さないの」



それは私も知らない話だ。

まだ少年に抱っこされている赤ちゃんだったときの。


髪を整えながらポツポツと話し出す彼女の綺麗な指をじっと見つめて、黙っていることしかできなかった。



「普段はあまり心から笑わない子が、絃ちゃんと2人きりのときはすごく優しい顔してるのよ」


「…そうだったんだ…、」


「でもね、あなたと離れてしまってから…また笑わなくなっちゃって。私はそんな絃織ちゃんに何度も声をかけたわ」



雅美さんは困ったように眉を寄せて微笑んだ。

「それでも駄目だった」と、その言葉はあの日悔し紛れにこぼしていたものとはまた違っていて。



「それから絃織ちゃんはどんどん男らしくなって、強くなって、気づいたら幹部にまで上り詰めてて。
私はそんな彼にいつの間にか惹かれてた」



それは当たり前のことだと思った。

あんなにも格好良いんだもん。

あんなにもまっすぐで、1度決めたことを絶対に覆さない人。


そんなの誰だって惚れてしまう。