しばらく水の外にいた魚に水を与えたかのごとく、私は活力を取り戻す。
改めて、水上くんに感謝だ。


不思議な王子様のことはこの際置いておくとしよう。
今はこの爽快感と、集中する視線を浴びずに過ごせるこの一時を大事にすべきなのだ。


「ん……」


なんだか……眠たくなってきたかも。

普段から掃除している教室の床に腰を下ろして意味もなく一点を見つめているとどうしようもない睡魔が押し寄せてくる。


走り疲れたのと気が緩んだのと……この場所が直射日光を避けていて涼しくて、休む環境としては最適であるからか。


「しばらくしたら起こしてあげるから、眠ってていいよ」


さらに、α波を出していそうな心地の良い優しい声をかけられ、一層眠気の沼に引き摺り込まれた。


『彼氏である慎くんと文化祭を回る、という周りへのリア充アピールをした方が今後のためになるのではないか?』という最低な考えと、『このまま欲のままに眠ってしまえばいっときの間は現実を忘れることが出来る』という悪魔の囁きの中でしばらく心が揺れ動く。


そして……


「こっちへおいで」


現実で私に向かって放たれた、甘い囁きに抗うことは出来なかった。