部屋の前まで送り届けたもらったウィルの目の前で、モジモジと何故か恥ずかしとうにしている愛来。

 愛来?

 どうしてんだ?

 頬が赤い?

 ルドーに乗って夜空を飛んでいたせいで風邪でも引いてしまったか?

 ウィルは心配になり愛来の頬を手で包むと、自分の額をくっつけてみる。すると更に愛来の顔が赤く染まっていく。

 口をパクパクと動かしていた愛来がグッと唇を噛みしめたその時、愛来の方からウィルの唇を塞ぎキスをしてきた。

 まさかの展開に、ウィルは時が止まってしまったかのような錯覚を覚えた。

 目を見開いて固まるウィルと目が合ってしまった愛来は恥ずかしそうに目を逸らす。

「ウィル今日はありがとうございました。えっと……大好き!!」

 そう言うと、愛来は自分の部屋へ入ってしまった。

 閉まっていくドアをスローモーションの様に眺めながらウィルは固まり続けた。バタンッとドアが閉まる音でウィルは自分の口に手を当てるとその場にしゃがみ込んだ。顔に熱が集まっていく。

 何だこれは……。

 可愛すぎるだろう。

 全てが可愛すぎる。

 叫んでしまいたい衝動に駆られるも何とかそれを我慢する。


 それにしても言い逃げとは……。


 どうやら俺の思いは愛来に届いたらしい。


 さて、明日からどうしたものか……。



 *


 翌朝ウィルは愛来の部屋に訪れたが部屋へ入る事は許されなかった。愛来の部屋から出てきたリミルにやんわりと断られ、それなら昼を一緒にと言ったがそれも断られてしまった。

 何故だ?

 昨日の「好き」という言葉は幻聴だったのか?

 苦悩するウィルの元へやって来たのはアロンだ。何やら珍しい物でも見たというように目をパチパチと動かし、ニヤリと笑っている。


 この顔気にくわない。

「殿下もうすぐ会議の時間ですので……聖女様に振られても仕事はきちんとお願いします」

 こいつ……。

 ウィルは口元をヒクヒクとさせながら、綺麗な笑顔を作った。

「振られてなどいない」

「左様ですか。申し訳ございません」

 アロンは頭を下げているが口元は笑っている。

 それを見たウィルのこめかみがピクピクと動くのがアロンには、はっきりと分かった。それを気にした様子も無く、顔を上げたアロンがにこりと笑う。

 ウィルは笑ったアロンの顔に火炎弾でもぶつけてやりたいがグッとこらえる。

 さっさと仕事を終わらせて愛来と話をしなくては……。

 ウィルはアロンと共に仕事へと向かった。