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 ウィル・ラ・ロイデンは今まで特定の人以外に心を許すことが無かった。

 それはウィルが五歳になったばかりの頃。

 膨大な魔力を秘めたウィル王太子殿下の誕生に大人達は大喜びした。これでこの国は安泰だと。

 しかし、王城に紛れ込んだ魔獣とウィルが対峙した時のこと……。

 ウィルの放った魔法によって魔獣が断末魔の叫び声を上げ、見るも無惨にバラバラとなり、ウィルは頭から魔獣の血しぶきを浴びてしまった。その光景は凄まじく、周りで見ていた人々は恐れおののいた。

 そして誰かが囁いた『魔王』と……。

 持て余すほど、膨大な魔力は人々を恐れさせた。

 大きな力は災いを呼ぶという、膨大な魔力は国を守り発展に導く一方で、暴走させれば国は滅んでしまう。

 ウィルは自分を見る人々の目に恐怖する。

 その目を見ているだけで、幼いウィルの心は荒んでいく。心が乱れるたびウィルの体内にある魔力は暴走した。

 それは大きな竜巻となり、時には落雷となり、大きな雹の塊となり降り注いだ。

 人々は更に怯え震えた。

 自分を見る人々の目に耐えられなくなり、ウィルは部屋へと閉じこもることが多くなった。誰とも会わず、心を乱さぬように、ただそれだけを考えて……。

 そんな時ウィルの前に現れたのが、愛来の祖父である宗次郎だった。宗次郎はある日突然、王城にやって来て、ウィルの荒んだ心を和らげていった。

 ウィルの魔力量を安定させるため宗次郎は針を刺した。たった一カ所、手の甲に針を刺すことで体に秘めていた魔力量をうまく循環させ暴走することを防いだのだ。


 魔力をうまくコントロールすることが出来るようになると、人々は手のひらを返したようにウィルにすり寄ってきた。特に女達の態度には辟易した。今まであんなに怯えていたというのに体をすり寄せ、甘い声を出し誘惑しようとする。

 ウィルがそんな奴らを信用することは無かった。

 人々から壁を作るウィルの姿に心を痛めたのは宗次郎だった。

 宗次郎は針を刺しながら元いた世界の話をウィルに話して聞かせてくれた。聞いたことも見たこともない世界にウィルの心はときめいた。

 行ってみたい魔法の無い世界へ。ウィルは強くそう思った。

 しかしそれは叶わぬ夢だと分かったいた。


 それから月日は流れウィルの十五歳の誕生日の夜だった。沢山の人々に囲まれ祝福を受けるウィルだったが心が満たされることは無い。

 そこにあるのは虚無感だけ。

 こっそりパーティーを抜け出し庭に出ると、そこには月を仰ぎ見る宗次郎の寂しそうな姿があった。目には薄らと涙を浮かべ「未来……愛来……」と愛する娘と、孫娘の名前を呟く宗次郎。

 ウィルは宗次郎にそっと近づき、声をかけた。すると宗次郎は「おや、主役である殿下がこのような場所にいてはパーティーが盛り上がりませんぞ」と、先ほどまで寂しそうに月を仰ぎ見ていた宗次郎の顔にはもう涙は無く、笑顔を貼り付けるようにして笑っていた。

「わしには殿下に差し上げる物はありませんが、わしの宝物を見せてあげましょう」

 そう言って取り出したのは『写真』と呼ばれる物だった。絵とも違うそこに映し出された一人の少女の姿にウィルの目は釘付けとなった。

 可愛らしく、恥ずかしそうに微笑む少女の姿に……。

 その日からウィルは宗次郎に針を刺してもらうたびに愛来の話を聞かせてもらった。

 こちらの世界では珍しい黒髪、黒目の瞳で笑った笑顔は花ようだと。

 他にも甘い物が大好きで、食べ過ぎてお腹を壊したことがあったとか、誰とでもすぐに仲良くなって笑顔にしてしまう。そんな優しい子だと。

 俺はその少女に会いたくなった。

 どんなに魔法を使ってみても異世界に行くことは出来なかったが、諦めることも出来なかった。

 そんなある日、俺の前に現れた少女。

 初めはまさかと思った。

 しかし、動揺からか魔力量を抑えることが出来ず漏れ出た魔力のせいで大気を揺らしてしまうと、それを地震と勘違した少女が俺を抱きしめ守ろうとする。

 それからすぐに針治療も施してくれたため間違いないと確信した。

 この少女は愛来だと。

 愛来と名前を呼べば驚いた顔をしていた。なぜ自分の名前を知っているのだと。

コロコロと変わるその表情に目が離せない。



やっと……やっと会えた。

君を……。


これでやっと……


宗次郎……。


あなたとの約束守れそうです。