屋敷の廊下を歩いていたアイリーシャは、前から人が歩いてくるのに気づいて身を潜めた。

「お嬢様、どちらにおいでですか?」

 壁にぺたりと張りつくようにして、アイリーシャは相手をやり過ごす。どうやら、アイリーシャを探しているようだ。
 ルルを腕に抱いたまま、ほっと息をつく。腕の中からルルが見上げてきた。

「行かなくていいの?」
「いいのいいの。だって、私の顔を見たいってだけでしょ。最近、多いのよね……研究所の方も騒がしくて」

 以前、ルルを抱えて逃走していた時とは違う。
 アイリーシャが、倒れた人達の呪いの解除をしたということで、アイリーシャの株が急上昇。 おかげで、アイリーシャと友好的な関係を結びたいという人が、次から次へと屋敷に押しかけてくるようになったのだ。
 "聖女"なんて呼ぶ人も出始めて、若干げんなりしているところではあった。

「……嫌?」
「そうね。できれば、そっとしておいてほしいかな」

 できれば、今回の人生は地味に生きたかったのだが――神様との約束もあるのでしかたない。

(……研究所に、避難させてもらおうかな)