蘭丸湖月の名前を見た時は、こーちゃんだと思った。

こーちゃんの姿を見た時は、よく似た同姓同名の別人だと思った。

そしてこーちゃんが誰もいない裏庭で木を蹴飛ばしているのを見て、やっぱりこーちゃんだと思った。

そのぐらい、こーちゃんは上手く擬態していた。

俺が知っているこーちゃんは小学四年生まで。

小学校にあがってからはともかく、それ以前のこーちゃんは、俺には暴れん坊の弟みたいな感じだった。

口が悪く、態度も悪く、こーちゃんの言うところの、現在の『裏』、そのままだった。

高校生になったこーちゃんは、誰に対しても敬語で接する、楚々としたお嬢様みたいな感じだった。

え、誰あれ。こーちゃんじゃない……! 

それがこーちゃんが話しているところを目撃した最初の感想だった。

でも、蘭丸湖月なんて、苗字も名前も珍しい……でもあれがこーちゃんなわけない……同姓同名で面差しも似ている……でもこーちゃんがこんな丁寧な性格なわけない……そう、思考回路はドツボにはまって、じゃあ調べるか。と。

折よく教師に推薦されて、蘭丸湖月の親友が生徒会室へやってきた。

名前は浅井音々。

どうやら、俺たち家族が出たあとの家の、現在の住人らしい。