【美濃side】

 私は多恵と共に、寝所に向かった。
 紅と同じ部屋にいても、不思議と体が震えることはないが、信長の名を聞いただけで、体の震えが止まらない。

「帰蝶様、大丈夫でございますか? 体調が思わしくないのなら、わたくしが御殿様にそのように申し伝えます」

(多恵、案ずるでない)

 私は帰蝶。信長の正室。
 先日は取り乱してしまったが、もう覚悟は出来ている。

 多恵は廊下で私を見送る。私は信長の待つ寝所へ入り、畳に三つ指をつき頭を垂れる。信長は布団の上で胡座を掻き、獲物を捕らえた獣のように、鋭い眼差しで私を見つめた。

「帰蝶よ、そこに立ち着物を脱げ」

 着物を……脱げ……!?

「早くしろ」

 私は立ち上がり信長に背を向けた。
『信長に輿入れし、子をなすがそなたの務め』斎藤道三と小見の方の声が鼓膜に蘇る。

 ここで逃げ出すわけにはいかない。

 美濃……。
 あなたは信長と結婚したのよ。

 意を決して、震える手で腰紐を解いた。
 スルスルと音を立て、腰紐は畳に落ちる。

 肩にかかる着物に手を掛けゆっくりと振り払う。着物は花びらが散るように、はらりと私の足元に落ちた。

 一糸まとわぬ裸体を曝け出した私は、信長に背を向けたまま振り向くことが出来ない。

 信長が立ち上がる。
 ミシミシと畳を鳴らし、近付く足音……。

 足がガクガクと震え、私は両手で自分の体を隠す。

 抵抗せず、信長に抱かれるのだ。
 我慢すれば……すぐに解放される。

「右肩に黒子(ほくろ)があるのか」

 信長の気配を感じ、瞼をギュッと閉じる。信長は背後でしゃがみ込み、足元の着物を拾い上げ、私の体に羽織らせた。

(信長様……?)

 私は着物で体を隠し、信長に視線を向けた。

 信長は私を見据え、こう言い放った。