あれから1週間が経った。始めこそ久しぶりの普通の学生生活、そして何より葉月家次期当主としての生活に戸惑っていたが1週間もすればさすがに慣れた。

一度は体験していたことだし、順応するのに3日もかからなかったと思う。


「兄さん。明日は残念だけど一緒に朝ごはんを食べられないんだ」


いつものように我が愛しの弟、朱と朝ごはんを食堂で食べていると突然、朱は悲しげな表情を浮かべてそう言った。


「そっか…。それは残念だね。寂しいな。明日は何かあるの?」


ここ1週間、毎日朱と朝食をとっていたので寂しい、と思ったことを口にする。
前回、朱と一緒に居られなかった分、そして今回も多分居られなくなる分、私は今の内に朱といる時間を楽しんでいた。


「…さ、寂しい?姉さ…兄さん、今、寂しいって言った?」


特に意識して言った言葉ではなかったが、その言葉にただでさえ大きな目をさらに大きく開いて朱が明らかに動揺する。
あの外面完璧な朱が誰が聞いているかわからない食堂で私のことを姉と呼びかけたのが何よりも証拠だ。


大きな瞳が今にもその目からこぼれ落ちそうだな、とか思いながら朱の珍しい反応を私はまっすぐ見つめ、「うん」と短く返事をした。


「そっか」


すると、朱は先ほどの悲しそうな表情とは全く真逆の嬉しそうな表情を浮かべた。


何がそんなに嬉しいのだろうか。
この時期の私ならそれなりに朱と仲良くしていたからこう言った発言も多分していたと思うけど。

朱が何故そこまで動揺して、喜んでいるのかよくわからなかったが、深くは考えず私は目の前の食事に集中することにした。


じゃなくて。


「俺の寂しい発言はどうでもよくて!明日は何かあるの?」


話が逸れていたことに気づいた私は再び同じ話題を朱に振る。
朱の珍しい反応で忘れかけていた。