ひと波乱あったオープンから三ヶ月が経過し、季節は夏目前。この頃は照りつける太陽も強さを増し、日に日に夏を感じつつある。

隼は秘書の美穂が淹れたアイスコーヒーを飲みながら、社長室で人事部長である大久保の報告に耳を傾けていた。


「ミニョンミネットに引き抜かれたシェフたちですが、うちに戻れないかと連絡が入っております」


あれからミニョンミネットは榊原の内部告発により食品偽装が公になり、民事再生の手続きが進められている。高額な報酬をエサにシェフたちを引き抜いたものの、それが仇となり食品の偽装に手を染めたのだろう。


「戻ってもらおう。腕のいいシェフばかりだから、ほかに行かれるよりよっぽどいい」


シェフたちは高村の口車に乗せられただけ。今までの分を挽回するつもりでやってもらえれば、それで十分だ。


「社長はそうおっしゃると思いました。あの榊原でさえ、うちで引き取るくらいですから」
「一から出直すと頭を下げているんだ。チャンスは与えてあげないとね」