崩れたのはシミができていた部分だけだったから、思ったよりも瓦礫の片づけは簡単だった。


といっても、ドアを開けるのに邪魔になる部分を横に移動させただけ。


「よし、開けてみよう」


さすがに緊張しているようで、元浩が上ずった声で言った。


「懐中電灯とか、いらないの?」


愛奈が後ろから元浩に声をかける。


「調理室の明かりが入るから大丈夫だろ」


元浩はそう言うと、さび付いたドアノブに手をかけた。


あたしは祈るように胸の前で手を組み、ゴクリと唾を飲み込んだ。


どうか、中になにもありませんように。


自然とそんな風に願っている自分がいた。


そしてチラリと調理室のドアへ視線を向ける。


あれだけ大きな音が響いたのに、まだ誰も様子を見に来ない。


誰か……来て。


そんな願いもむなしく、ギィィィとさび付いた音を響かせながら、ドアは開いてしまったのだった。