「とりあえずこんなもんか?」
 
港にある店のカフェで聞き込みをしてみたが、特にこれと言った情報は得られなかった。
 
この街にアジトがあると言っても、奴らは街中を歩いたりはしていないみたいだな。

それにあいつらは何かと目立つ服装をしているから、ハデな格好で街中なんかを歩いていたら、噂になってもおかしくないだろう。

「レオンハルトと待ち合わせの時間までまだ結構あるな」
 
約束した時間までは一時間くらいある。

港にも特に怪しいところも見られなかったし、せっかくだからこの辺りを歩いて回るか。
 
そう思って手帳を胸ポケットにしまい、歩き出そうとした時だった。

「ちょっと……そこの兄さんや」

「ん?」
 
隣から声が聞こえて呼び止められた。

俺は声がした方へと振り返り周りに目を配った。

しかし周りに人の姿がない事を確認して、俺は呼び止めた人物に向き直った。

「俺ですか?」

「そうですよ。お前さんを呼んだんだよ」
 
見るからに怪しい老婆はそう言うと、こっちに来るようにそっと手招きしてくる。

その姿に俺は目を細めて、こっそりと右目に魔力を注いで老婆の周りの気配を探った。
 
しかし老婆の居る辺りからは特に嫌な魔力は感じられなかった。

「……俺に何の用ですか? ご婦人」

「まあまあ……こんな老婆をご婦人と呼ぶだなんてねぇ〜」
 
俺は警戒しながら老婆の前に立った。

そして老婆の目の前に並んでいる数多の剣たちに目を配った。
 
こんな数の剣をこの老婆一人で売っているのか? しかしどれも錆びていて、とてもじゃないが使えるようには見えないな。

「お兄さんもお一つどうですか?」

「いや……俺は――」
 
【必要ないです】と言葉を続けようとした時、ある一場面の記憶が脳裏を過った。