最近よく見る夢がある。
 
気がつけば真っ白な霧の世界に立っていて、真っ直ぐ見据える先にはある一人の女性が、俺に背を向けて立っていた。
 
その光景はここ何日かずっと目にしたものだが、何かが始まるわけでもないし、背を向けている女性がこちらへ振り返る素振りもなかった。
 
ただずっと同じ光景が繰り返されて、その中で俺は女性の背中に手を伸ばし掛けるだけだった。

その度に何度も強く胸が締め付けられる感情に襲われ、左目から一滴の涙が零れ落ちた。
 
小さく吹き抜ける風がふわりと彼女の白銀の髪をなびかせた時、俺はそこで目が覚めた。

「……っ」
 
ぼやけている視界が段々とハッキリとしてきたところで、俺は天井に向かって右手を伸ばしている事に気がついた。

その右腕を数秒見つめた俺は、そのまま右の手の平で自分の顔を覆った。

「……また、あの夢か」
 
そっと小さく呟き、頬に伝った涙を拭った。
 
ここ三ヶ月、ずっと同じ夢を見ては必ず決まったところで目が覚めた。

いったい何時からあの夢を見るようになったのか? 気づいたらここ最近毎日見ている気がする。
 
顔を覆っていた右手をどけて体を起き上がらせてから、俺は部屋の中を見渡した。
 
俺が使っているベッドの隣には、誰かの為に用意されたであろう同じベッドがもう一つと、クローゼットの中には女性物の新品のドレスや、ワンピースが何着もハンガーに掛かっていた。
 
当然、自分で買った記憶なんてなかったし、最初はミリィの私物かと思って本人に聞いてみたが違っていた。

だから俺は女神たちにプレゼントするために、自腹を切って買ったものだろうと思った。

その時の記憶がないのは、とっさに思いついた事なのだろうと片付けて。