両親が帰った2日後、裁判が始まった。

私は聞かれたことに答えるだけだけど、それでも緊張した。

驚いたのは、ドラマとは全然違うこと。

ドラマでは、弁護士も検事も法廷内をうろうろと歩きまわりながら、質問したり問い詰めたりしてたから、そういうものだと思ってたけれど、実際の裁判では、弁護士も検事も自分の席から全然動かない。

私も証言をする席に置かれたマイクの前で喋るように言われた。

全ての証言を録音して残すために、全員、自分の席のマイクの前で話さなければいけないらしい。

知らなかった。



裁判では、いろいろなことを聞かれたが、驚いたのは、犯人が私と相思相愛だと思い込んだエピソード。

彼が5冊のハードカバーを借りた時、
「重いので気をつけてお持ち帰りください。」
と声を掛けたからなんだそうだ。

はぁ!?

と言いたくなるくらいありえない認識。

10年間引きこもりだった読書好きの彼を、図書館でいいから…と両親が無理矢理外に出したのが昨年の春。

彼にとって、両親以外と10年ぶりに初めて会話をしたのが、私だったらしい。

それから、私に会うために外に出るようになって、いつか再就職もできるのでは…とご両親は喜んでいたとのこと。

全くお気の毒としか言いようがない。


ただ、弁護士さんが言うには、彼は発達障害を抱えていて、相手の気持ちを推し量ることが難しいのだそうだ。

だから、社会生活もうまくいかなくて引きこもりになったらしい。

証言台に立った彼の恩師いわく、子供の頃からの彼の印象は、本ばかり読んで、誰とも喋らないおとなしい子。

思い詰めた結果、誰にも相談できず、間違った行動に出た…と情状酌量を求めた。