その後、また1週間が経過したが、私は宮原さんに連絡することなく過ごした。

私なんかが真に受けて連絡をしたら、笑われるだけだ。

ああいう素敵な男性は、そう、優美のような華やかな女性こそが相応しい。

私のような地味で何の取り柄もない女なんて、彼に釣り合うはずもない。


その日も私は書店に寄り、好きな作家さんの新刊を購入して帰宅する。

書店に少し長居し過ぎたため、7時半近くになり、辺りはすっかり暗くなっていた。

私は自転車に乗り、アパートへと続く裏路地に入った所で、電柱の陰から飛び出した人影に驚いて急ブレーキをかけた。

幸い、その人にぶつかることなく、止まることができたが、地面に足を付いた直後、自転車の前かごをその男性に掴まれた。

えっ!? 何!?

驚いた私は、声を上げることも出来ず、その場に固まってしまった。

怖い!!
どうしよう。

すぐにも走って逃げたいが、自転車に跨った状態では、それも出来ない。

自転車では後ろに下がることも出来ず、前を押さえられているから前に進む事も出来ず、八方塞がりに思えた。

それでも、逃げなきゃ!

私が、自転車を降りようとすると、男性は私の手首を捕まえにきた。

彼は遠くの街灯を背にしていて、顔もよく見えない。

「騒ぐな!
おとなしくしてたら、何もしない。」

そんなの信じられるわけがない。

私は、捕まる前に、必死でその手を振り払い、駆け出した。

ガチャン!!

後ろで、乗り手を失った自転車が大きな音を立てて倒れた。

私は必死で走って、大通りへ出るとすぐ左手のコンビニに駆け込んだ。

「あの!
助けて、ください!」

私は息を切らしながら、膝に手をつき、誰に言うともなく訴える。

「どうしました?」
「由里子さん?」

レジ奥からの店員さんの声に重なって、窓ガラスの前に並んだ雑誌コーナーから聞き覚えのある声が聞こえた。