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オフィスから徒歩で約五分の、イタリアンレストラン。

平日のランチ時は必ず満席になるそこに小走りで辿り着き、店の前で並んでいる人たちに軽く頭を下げながら店内に入る。
直後、お腹を刺激する香りを鼻腔に感じながら、周りをキョロキョロと見回した。


莉緒(りお)!」

「待たせてごめんね」

「大丈夫よ、お疲れさま」


少しだけ遅れたことに申し訳なさを感じたけれど、わざわざ先に来て席を確保しておいてくれた同期の山口多恵(やまぐちたえ)は、にっこりと微笑んで労いの言葉までくれた。


「いつものやつ、頼んでおいたからね」

「ありがとー! さすが秘書課の鏡!」


メニューを手に取る前に言われて、自然と笑顔になった。


多恵は、出会った時からずっと、こういう気配りがとても上手い。
頼んでいなくてもサラッと熟してくれているうえに、ちっとも嫌味な感じがしなくて、そんな彼女のことを本当にすごいと思う。


だからこそ、秘書なんて大変な仕事が務まるのだろうけれど。