『黎祥、貴方の名前はね、偉大な初代陛下の愛された方から頂いたの』
よく、母が聞かせてくれた寝物語。
『あんたは、どんな人を愛するんだろうね―……』
遠い、遠い、古びた記憶。
撫でられた頭で感じた温もりは、もう、思い出せない。
(母上、私が愛したのは……愛してはいけない人です)
きっと、彼女を不幸にしてしまう。
分かっていても、彼女に触れたいと願う。
―化け物のくせして。
「陛下、そろそろお戻りを」
もう、何度目の言葉だろう。
「義母上が、行動を起こしたか?」
「っ、皇太后陛下の話をしているのではありませぬ!」
「じゃあ、なんだと言うのだ。あの場所において、私はいなくてもいいだろうに」
「陛下!王であるという、自覚をお持ちください!!」
「自覚?」
黎祥は、笑った。
おかしくて……そう、"愉快”で。
「……私は、望んでなどいない」
「……っっ、」
「勝手に祭り上げたのは、貴様らの方だろう。私はもう暫く、翠蓮と過ごす。表向きの実権は私でも……お義母上は嬉嬉として、政治を行うのではないか?」
別に、王は黎祥じゃなくてもいい。
「それと、お前達は誰の許可で、ここに訪れている」
「っ」
「翠蓮の居ない時だから、良かったものを……いたら全員、私が斬り捨てていたぞ」
そう、脅しをかける。