「……そうですか」


事の次第を話すと、嵐雪さんはひとこと、そう言って。


「別れは、ちゃんと告げました」


順徳太妃にそばにいてもらって、翠蓮はちゃんと、全部話した。


「翠蓮様……」


心配そうなこの人は、黎祥の味方。


大丈夫。


黎祥は、孤独じゃない。


「……嵐雪さん、」


「……はい」


翠蓮の顔は、相当、酷いことになっているのだろう。


泣きすぎて、とても寵妃とは言えない顔。


順徳太妃は翠蓮の隠そうとしていることを見抜いてすぐ、嵐雪さんを呼んでくれた。


他の仕事があっただろうに、すぐに駆けつけてくれた、黎祥の子供を誰よりも渇望していたはずの嵐雪さんは、翠蓮の心情を慮ってか、表情は暗い。


喜ばせてあげたいのに。


この子の誕生を、喜んであげたいのに。


翠蓮には、それができないのだ。


このお腹に宿る子供が、皇族でないのならいい。


でも、黎祥は確かに皇族であり、赤い瞳だ。


きっと、この子も赤い瞳。


何もわからないのに、直感的にそう感じてしまうのは……どうしてだろうか。


「……私、この子を産んでいいでしょうか」


風に掻き消えそうな、声だった。


優しい風でさえ、今の翠蓮には痛い。


赤い目を擦って、見た景色はぼやけてて。


嵐雪さんが共に連れてきた蘭太医は翠蓮を診察して、すぐに、『懐妊している』と、判断した。


彼女が言うのだ、間違いはない。


お腹を抱え込むように、触れる。


何も感じないけれど、分かる。


―ここにいるってこと。