食事を終え、久々に満腹という状態に身を落ち着かせる。といっても胃が小さくなっているのか私の食べた量はたいしたことない。

 片付けしようと腰を浮かしたところで理恵さんに声をかけられた。

「ほのかちゃんのお父さん、こんなときでも仕事を優先するなんて警察官の鏡というか、正義感の強い人なんだね」

 父を褒められているはずなのに、私の心はざわつき返答に迷う。お茶を濁していると樫野さんも話題に入ってきた。

「あの人、たいてい役場前の派出所にいてくれてね。もちろんほかにも何人か警察官はいるみたいだけれど、必要があればどこにでも来てくれて、地域の人にとってはすごく有り難い存在なのよ」

「そう、なんですか」

「ほのか」

 私の知らない父の話に少しだけ興味が湧いた。しかし穂高に名前を呼ばれ、私の意識はそちらに向く。
 
「そろそろ行こうか。あまり遅くならないうちに」

「そうだね」

 当初の目的を思い出して私は彼のそばに駆け寄る。西牧天文台に行くには、山道を登っていかなくてはならない。

 車も通れる道とはいえ外灯も気持ち程度しかなく、暗くなってからは危ないだろうという判断だ。まだかろうじて空が明るさを残している今出発しないと。

「ふたりだけで歩いて大丈夫? 帰りはどうするの?」

 理恵さんが穂高に尋ねる。

「まだ暗くなっていませんし平気ですよ。天文台を管理している人と知り合いで、泊めさせてもらうこともできると思うので」

「こんなときに天文台って頭おかしいだろ。降ってくる月でも見るつもりか?」

 心配そうな理恵さんとは対照的に宮脇さんは小馬鹿にしたような言い草だ。

 無理もない、たいていの人は私たちが今からしようとすることを聞けば彼みたいな反応だろう。