女性の言った通り四つ角を左に曲がると、錆びついて文字も薄れているが『谷口商店』という小さな看板が目に入った。

 お店は引き戸になっていて、私たちはゆっくりとドアを開ける。立て付けが悪いのかガタガタと軋む音が響いて、はめ込まれているガラスが揺れた。

 中は薄暗くエアコンが効いているわけでもないのにひんやりとしていて、汗がすっと引いた。

 昔ながらという言葉がぴったりで下は剥き出しのコンクリート、棚も木製で力を入れたら崩れそうな具合だ。

 生ものはほとんどなく、しなびた不揃いな野菜が中心で、他には缶詰やお菓子などがまばらに並んでいる。賞味期限が怪しいものも絶対に混ざっていそうだ。

 食べ物以外にはラップや絆創膏など日用品も置いてあった。今の時代を考えればどれも貴重な商品だ。しかし誰もいないのは不用心すぎる。

「誰も、いないね」

「ちょっと、声をかけてみよう」

 穂高が奥に足を進めたところだった。私たちが来たときと同じようにドアが音を立て、来訪者の知らせを告げたのは。

 自然と私たちの意識は揃ってそちらに向く。

 店主かと期待して見れば、入ってきたのは若い男性だった。体格はがっしりとしていて、アメフトか柔道選手を彷彿とさせる。

 色褪せたTシャツにジーンズという格好で、無精ひげをはやし吊り上がった目は血走っている。

 髪は寝癖なのか癖毛なのか妙な方向にうねっていて、お世辞にも人相がいいとは言えない。どう見てもこの店の人間じゃないのも明白だ。

「なんだ、先客がいたのかよ」

 私たちの存在に気づき、男性はちっと舌打ちした。その仕草ひとつで私は嫌悪感にも似た恐怖で体がすくむ。