歩幅的にどうしても彼が私の手を引く形になる。それでも私に合わせてくれているんだろうな、というのが伝わってきた。

 影がないので視界は開けている。ずっと遠くまで見渡せそうで目を凝らしてみたけれど景色はあまり変わりそうにない。

 冷夏で、かつ雲が太陽を遮っているとはいえ七月の気候は歩いているだけで体力を消耗していく。

「ねぇ!」

 不意に、別の方向からやや高めの声が飛んできた。

 のろのろと首を動かし声の主を探せば、道路を挟んだ反対側から小学校中学年くらいの少年が切羽詰まった表情をこちらに向けている。

 律儀に左右を確認し、彼は迷わず私たちのところに駆け寄ってきた。ボーダーのTシャツに短パンとまさしく少年といった格好で、ひょろりとした手足はいい感じに日に焼けている。

 麦わら帽子と虫取り網を持っていれば完璧だ。けれど今はそういった事態ではないみたい。

「猫、見なかった? 茶色いぶちですごく体が大きいの」

 なんの前振りもなく彼は質問してきた。私と穂高は思わず顔を見合わせる。

「見て、ないな」

「そうだね。猫は見てないと思う」

 私たちの回答に少年があからさまに落胆の色を顔に浮かべ肩を落とす。

「やっぱ食べられちゃったのかな」

 冗談でもなく彼は本気だった。『そんなわけないよ』と反射的に言ようとしてやめる。

 ここらへんではわからないけれど、食料供給が追いつかずリアルに今は犬猫さえ食べられてしまう時代だ。

「きみ、おうちこの辺?」

 励ましや慰めの言葉がかけられず、今度は私から聞いてみる。彼は大きく頷いた。

「うん。じいちゃんが店をしてるんだ」

「お父さんとお母さんは?」

「いないよ」

 私は一瞬、反応に困る。答えた彼は私とは対照的にあっけらかんとしていた。