彼の、正確には彼の祖父母宅はなかなかの豪邸だった。昔の町の中心部と言われている平屋が並ぶ一角にあるひときわ大きなお屋敷。

 『安曇』という珍しい名字もあわさって、大体の位置だけを覚えていたらたどり着けた。

 瓦屋根が黒々と輝いて、門構えからして違う。木の格子の玄関は伝統と重みを感じさせた。

 おかげで勢いに任せて来たもののインターフォンを鳴らす手前で、冷静な自分が歯止めをかけた。

 半年も音沙汰なく突然家まで押し掛けて、どう思われるだろう? そもそも彼はいるのかな。こんな状況だし、とっくにアメリカに戻っているかもしれない。

 あれこれ考えを巡らせたが、最終的に私はインターフォンを鳴らした。迷う時間も惜しい。

『はい』

 機械を通した硬い女性の声が聞こえ、私は麦わら帽子をさっと取って挙動不審気味に自己紹介する。

「あのっ、私、紺野ほのかと言います。安曇穂高くんと同じ高校で………安曇くんはご在宅ですか?」
 
 この聞き方でよかったのかな?

 しばらくの沈黙。どうしよう、と後悔にも似た感情が心拍数と共に上昇する。そのとき重厚なドアががちゃりと音を立てたので思わず肩が震えた。

「ほのか?」

 当然のように名前を呼ばれたことよりも、懐かしい顔に心が揺れる。変わらないとは言えない。痩せたというか、やつれたというか。疲れた顔をしている。

 でも仕方ない。私だって人のことは言えないし。けれど、彼はやっぱり彼だった。懐かしくて、切ないと呼ぶ感情が込み上げてくる。

 私はぎこちなくも微笑んでみせた。まるで家出娘が帰ってきたかのように。

「……久しぶり」

「どうした? 世界の終わりに俺に会いたくなった?」

「うん」

 茶目っ気交じりの彼の問いかけに素直に頷くと、安曇穂高は大きい瞳をさらに見開いた。