「伊織にいさま、
吊弦です。おはようございま…」

「吊弦、よくきたね、待ちくたびれたよ」


襖をあけ挨拶すると伊織にいさまが私を高い高いする。

ここに来て1週間。
もうこれも恒例になっているが、やはりまだ慣れない。


「い、伊織にいさま!下ろしてください///」

「吊弦は今日も可愛いねー」



伊織にいさまは私の主な先生みたいなもので、所作や茶道などは伊織にいさまが教えてくれている。

お兄様方に初めて挨拶した時、最初に声をかけてくれたあの長髪イケメンさんだ。


ちなみに言うと伊織にいさまも攻略キャラ。




まあ最初からこんなに仲が良かったわけじゃない。

初めて伊織にいさまの教育をうけた時、最初は着物の脱がし方から教わっていた。


「こ、こうですか?」

「うん、上手。次に長襦袢。」


教わっていると伊織にいさまのうなじあたりに切り傷のあとがあった。


「伊織にいさま、この傷…」

「…!!触るな!」

ーバシッ

「っ!!」


傷痕に触れようとしたら伊織にいさまが私の手を払った。


「あっ…すまない吊弦!痛かったね…大丈夫かい?」

「ぁ…は、はい、大丈夫です
きゅ、急に触ってごめんなさい!」


その後の稽古はすごく気まずかった。

どうしよう。
初日から嫌われてしまったかもしれない…


「ありがとうございました、」

「あ、吊弦!」


稽古が終わり、帰ろうとすると伊織にいさまに引き止められた。

「は、はい、」

「その…ごめんね、怖がらせてしまっただろう…秋声さんに教育係を変えるよう頼んでおくから明日は来なくて…」
「そんなことないです!」


「……え?」



確かにびっくりはしたけど、別に伊織にいさまが怖いとは思わなかった。

ていうか勝手に触ろうとした私が悪いんだから、伊織にいさまが謝る必要ないのに…

むしろ私の方が伊織にいさまに嫌われていないか心配だ。


…でも、伊織にいさまに初めて声をかけてもらった時、すごく嬉しかった。
気まずいままなんて嫌だ!


「このまま、伊織にいさまに教えて貰いたい…です!
だ、ダメ…ですか?」


「…吊弦は私で嫌じゃないの?」

「もちろんです!
伊織にいさまが私を嫌いじゃなかったら明日も教えて欲しいです…!」

「…」


やっぱりダメだろうか。

恐る恐る顔を上げると伊織にいさまは頬を緩めていた。

「嫌いになんてなってないよ、明日もおいでね、吊弦。」


そういって伊織にいさまは笑って初めてあった時みたいに頭を撫でてくれた。


「は、はい!」



そのことがあって以来、伊織にいさまは会う度に撫でてくれたり高い高いしてくれたりするようになった。

大好きなにいさまだ。