ただ、逃げ出したかった。


一言で理由を述べるとするなら、きっとそれしかない。


ひんやりと頬を撫でる冷たい風に、私はぶるっと身体を震わせる。


11月に入ったばかりだというのに、外の世界はひどく寒く感じられた。


気温よりもずっと冷えきっているような気がするのは、私の心の問題かもしれない。



「我ながら、ちょっと無鉄砲すぎたかな」



コートを襟元にたぐり寄せながら、日が落ちはじめた空を見上げる。


与えられた猶予は決して多くはない。


残り時間を考えると、一刻も早く目的の場所に辿りついた方が良いだろう。


そして目的を達成したあかつきには──そのまま逃げてしまうのもありかも。


誰にも見つからないずっとずっと遠く。


あの人の手の届かないところへ。