一旦家に帰ってた私は、日が暮れる頃にもう一度制服に袖を通す。



玄関に向かったところで



「若菜ちゃん。

病み上がりだというのに、こんな時間から出かけるのかい?」



父に、声をかけられた。



「あ、うん…。」



坂下の通夜に行くとは、言えない。



別れたとはいえ、坂下の奥さんだった人は、父の愛人でもあった人だ。



「どこへ行くんだい?」



「ちょっと、そこまで…。」



言ったら止められる気がして、私は言葉を濁した。



「そうか、早めに帰ってきなさい。」



私は頷くと、足早に家を出た。



待ち合わせ場所には、既に野田先輩が来ていた。



「じゃあ、行こうか?」



野田先輩の言葉に頷くと、並んで歩きだした。



会場に着くと、制服姿の生徒が大勢いた。



当然と言うべきか、来ているのは3年ばかりだ。



3年の集団の中に入るのはキツイので、会場の隅っこで読経を聞く。



「先輩のクラスにも来てる人、いるんでしょ?

みんなのとこ、行かないんですか?」



「あー、今日は桐生の付き添いで来てるから良いや。」



「付き添いって…。

先輩だって、部員として坂下にはお世話になったんでしょ?」



「俺が書道教わったのは、桐生だけだし。

それより、読経中に喋ってると坂下からデコピンされるんじゃねぇの?」



「されるとしたら、先輩だけだよ。」



私の言葉に、野田先輩が苦笑した。