家に帰りたくないと言う桐生が、昔の自分とダブって見える。



放っておくことなどできない僕は、とりあえず自分の部屋に連れてきた。



彼女が知ったら、泣かれそうだが…。



「腹減ってるだろ?

今から作るから手伝え。」



僕は冷蔵庫から材料を適当に出し、サラダにする野菜を桐生に切ってもらうことにした。



…おい、その包丁の持ち方は危険だろ!?



「桐生、家の手伝いで包丁の持ち方くらい教わっただろ?」



「お手伝いさんいるから、家で作ったことない。

学校では習ったけど、あの持ち方じゃ指切りそうだし…。」



「お前のその持ち方の方が、危なかっしくて見てらんない。

コツ教えてやるから、よく見とけ。」



何の因果で、僕が桐生に包丁の持ち方から教えなきゃならないんだ?



一緒に料理して分かったことは、桐生は決して知らないわけじゃないってことだ。



頭では分かっているけど実践がついていかないタイプなんだと、ハンバーグ丼を咀嚼しながら分析してみる。



聞けば、裁縫どころか家事一般ロクにやらないんだとか…。



「家を出たいなら、ある程度のことはできないと苦労するぞ。」



少し説教じみたことを言ったかな?と、気になって桐生を見ると…。



意外と、真摯に話を聞いていた。



だけど、桐生は自分が抱えてる悩みを打ち明けようとしなければ、帰る気配もない。



さすがに泊めるわけにいかないから、話すように促してみるか、自分から話すまで待つべきか…。



迷いながら、冷蔵庫を開けた。



「桐生、何飲む?」



僕の隣で冷蔵庫を覗き込んだ桐生は、缶ビールを手に取った。



「ちょっと待て、未成年だろうが!」



僕が止めるのも聞かず、桐生は一気に飲み干し…。



「にがーい!!」



一口だけで、缶ビールを僕に突っ返してきた。