僕は、この世界が始まった時からここにいた。

神龍と呼ばれる龍が穢れを取り込み、それを浄化する様子も。

赤と白の民のことも。

僕は、この世界で生まれた者達を、我が子と思い見守ってきた。

人と龍の間で起こったことには、決して干渉せず、ただ時の流れに身を任せる。

それが、僕の役目だった。そうするべきだった。

けれども、僕は彼女に出会った。

神龍を殺すためにやってきた少女は、とても心の優しい、清らかな少女だった。

彼女は神龍の代わりに、国の穢れを引き受けた。

僕は人の姿になって、どうしてそんなことをしたのかを彼女に聞いた。

そしたら―。

「だって、神龍様もこの世界で生まれた生き物なんですよ?……どうして、独りぼっちで全てを受け入れなくてはいけないんですか?……神龍様は、国の道具ではありません」

だから、彼女は神龍に生きてほしいと願った。そして、いつか自由に空を飛んでほしいと。

けれども、優しすぎる彼女は、やがてその身に溜め込んだ穢れの代償として、心が弱くなっていった。

それでも、何とか耐え抜いて、国を支えていた。

だが、彼女は婚姻し子を得たが、彼女の子供は最初から歪んだ心をもって生まれてしまった。

だから、彼女は自分の命と引き換えに、彼女に残されていた綺麗な部分をかき集めて、魔力で浄化の種を作り、それを我が子のなかに埋め込んだ。

彼女が死んで、僕は苦しいくらいの喪失感を味わった。

彼女のひた向きな姿と、優しい微笑みが、好きだった。

彼女を、失ってから愛していたことに気付いた。