ティアが生まれた翌日、空はどんよりと曇っていた。

夜中まで起きていたので、レインはぐっすりとティアを腕に抱えたまま寝ている。

「………やれやれ」

レインを見ながら、レオンはどこか冷たさを含んだ声を出した。

「この子との幸せな親子(仮)生活も、まさか今日で終わりとはね。あの人のやることは、いつも強引で無粋だな」

どうやら、先程の言葉はレインに向けたものではないようだ。

「……しんどいな」

最初から分かっていたことだった。レインを引き取るということは、彼女に肩入れしてしまうということ。

三年という、彼にとっては短い期間の中でも、情というものは芽生える。

(本当なら、僕は深入りしてはいけないし、肩入れしてはいけない。けれど―)

レインという少女は、レオンの大切な人にそっくりだった。レインをここに住まわせたのは、それも理由の一つだ。

だが、そっくりでも同じではないということは分かっている。

(本当はね。このままずっと一緒に暮らしたかった。けれども、そうはいかない。君は一人で立ち上がり、ティアを育てないといけないから)

出来れば、竜の真実を先に話しておきたかったが、そんな時間はないらしい。

(彼等がここに来るまでまだ時間はある。取り敢えずレインを起こして、旅支度をさせないと)

レインがレオンと一緒にいる姿を見せる訳にはいかない。それに、ティアのことも。

こちらに向かっている彼等の中には、恐らく自分の旧友とも言える男がいる。

その男は龍を狩る役割を担っているのだ。ティアを見たら殺すか、生け捕りにして連れていくだろう。

それに、レインにとっては会いたくない相手でもある。

(まぁ、三年前に会った人を覚えてるかどうかも怪しいけどね)

だが、彼女に何かしらの恐怖を与えていたことは、記憶を読み取って知っている。

「……レイン。起きて」

「んー……師匠?」

まだ眠いのか、あくびをしながら起き上がると、側にいたティアも、もぞもぞと動く。

『ピギィ?』

「おはよう。さっそくで悪いけど、ここを出て!」

「…………え?」