「…………」

震える手で、ティアナはペンを動かす。レインが帰ってくる頃には、もう自分はいないだろう。

「何をしているんだ。ティアナ」

「クックレオ」

低い男性の声が聞こえ、ティアナは窓を振り返る。真っ黒な翼を持つ、ティアナの友人がそこにいた。

「……あの子を、守ってね」

「……残念ながらそれは無理だな」

「!まさか―」

「お前を一人にできるわけないだろ」

クックレオの言葉の意味を悟り、ティアナは悲し気に目を伏せる。

「クックレオもあの子のこと、大切でしょう?」

「そうだな。娘みたいに思ってた。何故なら、お前の可愛い妹だからだ。……でもな、俺にとって一番大切なのはお前なんだよ」

クックレオはティアナの肩に乗った。

「死にかけの俺を助けた魔女。『慈愛の魔女(じあいのまじょ)』に仕えると、俺は決めたんだ」

「……でも、そしたらあの子は」

「独りになるかもしれない。だが、カラスの俺がついていた所で、レインを守ることは出来ない。確かにレインは……お前が育てた女の子は、心の優しい娘だ。だがな」

そこで言葉を切ると、クックレオは窓の外を見る。

「優しいだけじゃ駄目だろう。それ以上に強くならないと。誰かに守られ庇われてるだけじゃ、本当の意味で強くはなれない。お前がレインに強さを求めるなら、レインは独りになるべきだ」

「………」

クックレオの言葉は、ティアナの心に刺さった。

分かっていたのだ。自分の運命も未来も、決して抗うことも変えることもできない。

(けれども、分かっていても、私はもっとあの子といたかった)

けれども、夢見た未来など来る筈がない。

「足音が聞こえるな。そんなに数は多くなさそうだ」

「……ええ。来たわね」

ティアナの呟きに答えるように、激しいノックの音が響いた。