気を失った少女を抱き抱え、風に抱かれた卵を見ると、青年はふっと笑う。

そして、屈んで少女の額へと手をかざすと、笑みが深くなる。

「……レイン。そして、ティア」

青年は卵を見て、眉を下げた。

「生まれていなくても、君はこの子を見付けたんだね。
いや、この子が君を呼んだのかな?」

腕の中の少女、レインを見てから、青年は立ち上がると、目の前で立っている少年を見る。

少年は槍を右手に持ち、肩に背負っていた。

「こんにちは、龍の守護者君。いや、龍使い君と呼ぶべきかな?」

この世界では、龍と心を通わし、共に生きる者を「龍使い」と呼ぶ。

プライドが高く、人間に対して強い警戒心を持っている龍は、人を背中に乗せて飛ぶことも、言うことを聞くこともない。

無理やり操るのではなく、心で繋がることができる者が龍使いとなれた。

「そいつを、どうする気だ?」

「連れていくよ。この子もね」

視線でティアを指すと、少年は槍を向ける。

「まだそいつから話を聞いていないんだ。悪いが、置いていってもらう」

「……まだ、早いんだよ」

「は?」

青年の言っている意味が分からず、少年は訝しげな視線を送る。

だが、青年は少年の質問に答えず、ただ穏やかに笑っているだけだ。

「意味が分かるように言え」

「……またね。今度この子に会ったら、優しくしてあげてね」

青年は竜巻のようにうねる風を纏う。

「!お前は、一体―」

「風よ、運んでおくれ」

青年の言葉と共に、風の渦は太くなり、その風圧に少年は目を閉じた。

そして、再び目を開けると、そこにはもう誰もいなかった。

「………」

『兄貴ー!!』

聞き慣れた声が聞こえ、少年は上を見上げる。少年を乗せていた龍が頭上をうろうろ―否オロオロとさ迷っていた。

レインが落ちた時、少年は龍と共に急降下したのだが、途中で落ちてしまったのだ。

だが、丁度木の上だったので、上手く身をひねり枝へと降りた。

『兄貴!返事しろー!!』

「ここだ」

『うわーん!おいらがついていながらぁ!兄貴が!兄貴がー!』

まるで少年が死んだかのように、目に手を当てる龍。

「………おい」

『兄貴ー!せめて骨は見付けるからなー!そしたら兄貴の好きな物沢山お供えしてやるから!待ってろよー!」

「………」

少年の中で、何かがぶちっと切れる音がした。

『あに―ぎぃやぁぁぁぁ!』

龍の目の前を、キラリと光る槍が飛んできた。その事に驚き、龍は動きを止める。

槍はある程度飛ぶと、また下へと落ちていく。

その槍を目で追っていると、飛び上がって受け止める人物が見えた。

『あ、兄貴!』

「勝手に殺すな」

『うわぁぁぁぁん!兄貴ー!』

龍は少年へ飛び付こうとこちらに向かってくる。

「……」

少年はギリギリまでその場に立ち、龍の顔が目の前に来ると、飛び上がって頭に乗る。

そして、槍の刃の付いていない方で、ドスっと龍の頭をどついた。

『ごふっ!』

「帰るぞ」

『……了解……』